富士山の恵

富士山のふもとから湧き出る水はなぜおいしいのか

富士山の恵

空から降った雨や雪はふつう河川となって地上を流れますが、一部は蒸発し、のこりは地下に浸み込んで地下水となります。ただし、地下には地上の河川のような水路があるわけではありません。地下水を含む地層はふつう帯水層(アキファー)と呼ばれます。帯水層の水は低いほうへと流れ、ふたたび地上に湧き出るのが湧水です。地下から湧き出る点で、温泉も例外ではありません。山国であり、火山の多い日本には湧水スポットが全国いたるところにあります。

富士山のふもとから湧き出る水はなぜおいしいのか。 富士山のもたらす水の恵みは、富士山の悠久の歴史と深くかかわっています。富士山は独立峰の火山であり、長いすそ野をふくめた広大な山容を誇ります。裾野までの富士山の総面積を1,000~1,200k㎡、地域差が踏まえて年間降 水量を1,200~3,000mmとして、年閒20~22億㎥の降水量 がもたらされることになります。

富士山から流れる河川はほとんどありません。山中湖から桂川を経て相模湾にそそぐ相模川と、白糸の滝・音羽の滝(静岡県富士宮市)に発する芝田川だけです。富士山域に降った降水量の80~85%は地下に浸透して帯水層を流れます。

富士山は地質的に過去20数万年間に起こった火山活動の積み重ねの上に、今から1万年前以降における噴火により形成された新富士火山が現在目にする富士山の姿です。

日本で販売されるミネラルウォーターには、ナトリウ ム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの陽イオンの数値が表示されています。いわゆる軟水はカルシウム・ マグネシウムなどの陽イオンが1Lあたり100mg以下、 それ以上は硬水です。

秋道智彌

大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
総合地球環境学研究所 名誉教授
山梨県立富士山世界遺産センター所長

秋道 智彌(あきみち ともや)